
「僕はあえて、スリッパは出さないよ」と笑いながら、ご主人がにこやかに玄関へ迎え入れてくれた。少し戸惑いながら、素足で家の中へお邪魔すると、足の裏にかすかな凹凸を感じる。床に張られた柔らかい風合いの樅(もみ)の板の木目が、木のぬくもりと共に伝わってきて、初対面の緊張が一気にほどけた。山口さんは、この感触を体験させるため、あえて素足で歩くことを勧めたのだ。そして、玄関からリビングへと案内してくれる途中に何度も立ち止まり、開け閉めのしやすいドア、落ち着いた色合いと質感が美しい漆喰壁(しっくいかべ)など、気に入っているというポイントをいきいきと紹介してくれた。

ご主人がワープロで打った数枚のエッセイを見せてくれた。タイトルは「一年六ヶ月を振り返って」。ベガハウスとの出会いから、建築を決めた経緯、そして実際に暮らしてみた感想をまとめたものだという。
山口さんご夫妻が自宅を新築することになったのは、区画整理で移転を求められたから。建設業者を探し、いろいろな家を見てまわったがなぜか心に響く家が見つからなかった、とご主人。ある日、偶然通った道で見つけた片屋根の木造平屋の家の前でふと足が止まり、運良くお話を伺うと、ガハウスの徳栄建設を紹介され、信頼できる業者だと判断して依頼したという話を聞いた。この出会いから、区画整理の移転許可が出るまでの間、担当の坂元さんはよく足を運んでくれたので、じっくりと話をすることができたということ。「許可がでるまでの間に彼は、私たちの暮らしや性格、好みも感じ取ってくれていたのだと思います」と当時を振り返る。実際に契約して設計がスタートしてからは、今までのコミュニケーションの積み重ねもあり、スピーディーに案がまとまっていった。
山口さんのエッセイの最後をしめくくるのは、引渡しの日のベガハウス社長の挨拶。「私どもは、建物をお引渡しするのではなく、山口様の生活の場をお引渡しするのだという信念を持っております。お引渡しした段階の建物は、必ずしも山口様の生活と完全に一致するものではないと思っております。最低一年は、この建物で生活していただき、その間に起こったいろいろな生活のご要望を受けて、補修を行い、本当に満足いく生活がおできになったときが、初めて本当のお引渡しができると思っております」というもの。「この社長の言葉がとても良かった。私達老夫婦は、最高の家を受け取ったよ」とにっこり。歯切れのいい口調の中に優しさがにじみ出る山口さんと、よりそうように控えめな奥様との夫婦のたたずまいが、木と漆喰に包まれた心地よい家にしっくりと溶け込んで見えた。